
「わ……キータさん、なにを作ってるんですか?」
今日のお客様は、様子を見に立ち寄ってくれたメリムさん。
メリムさんは、野営地の外に置いた作業台の上で
なにやら怪しげな作業をしているキータにそう尋ねました。
「あっ、メリムさん、こんにちは!」
作業をする手を休め嬉しそうに顔を上げるキータ。
「えっへっへー、実は雑貨屋さんから余りものの商品を
たくさん頂いたので、それで新兵器を作ってるんですよー!」
その言葉に首をかしげるメリムさん。
「新兵器、ですか……?」
「はい! 新兵器です!!」
そう答えるキータの手の中にあるのは、手のひらサイズの
平べったいプラスチック器と怪しげな液体入りのスポイト。
そして目の前の作業台の上に置かれているのは、
不気味泡立つ液体の浮かぶ試験管と、透明な水の入った小瓶。
それはどうみても鍛冶職人とは関係のない作業光景なのでした。
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キータが雑貨屋さんから仕入れたのは聖水1ダース。
「武器を打つときの冷却水にしたら聖なる力が付くかも!って
思って購入したんですけど、面白い使い道を発見しまして!」
この聖水、なんと以前にキータが知り合いからたくさん頂いた
『服だけ溶かす液体』に触れるとなぜか爆発するのです。
「あの……それ、安全なものなんですか?」
「ご本人によると『飲んだりしなければ大丈夫』だそうです!」
「…………うーん」
そんな聖水と謎液体の性質を利用してキータが作ったのが、
聖水と謎液体を内蔵して、衝撃で爆発する小型地雷なのでした。
「あんまり爆発はすごくないですから、まだ改良の余地は
ありますけど、敵をびっくりさせるには十分です!」
「地雷、ですか……」
ちょっと難しい顔になるメリムさん。
てっきりキータが火薬の調合でもしてるのかと思っていたら、
予想外の答えが返ってきて反応に困ってしまったのです。
「それなら……」
きゅるるるるるるるるるるるる
メリムさんの言葉を、唐突に謎の音が阻みました。
「ちょっ、キータさん、もしかしてまた…………」

そうです。謎の音の正体はキータのハラペコの音なのでした。
「いえあの……ついつい、また街から持ってきたお野菜を
合成してなかなかの物体にしちゃいまして……!」
「もう……キータさんっ!
ちゃんと食事は摂るようにって言ったばかりですよ?」
ちょっとだけ怒った顔をしてみせるメリムさん。
とはいえ、おなかを鳴らしてぐったり作業台に突っ伏している
キータを前にしては、どう言った物か困ってしまいます。
ふとメリムさんの頭に疑問が浮かびました。
「ちょっと前にあげたお菓子はどうなったんですか?」
メリムさんはつい最近、キータに生チョコレートで作った
タルトをプレゼントしたばかりだったのです。
それも、お腹を空かせているキータのためにと少し多めに。
メリムさんが尋ねると、キータはぴょこっと立ち上がり、
すぐに荷物の中から小さな紙の箱を取り出しました。
「あ、はいはいはいっ! あります、ここに!!」
それは、生チョコレートのタルトが入った紙の箱そのもの。
「……どうしてまだ封を開けてないんですか?」
箱の蓋に貼られたシールがそのままになっている箱を見て、
メリムさんはきょとんと目を瞬かせて尋ねました。
その質問に、キータは恥ずかしそうに答えます。

「……メリムさんと食べたいなって思ったんです……けど」
ダメでしょうか、とぼそぼそと尋ねるキータ。
まだきょとんとしているメリムさん。
「あの、その……一人だともったいないっていうか!
なんだか恐れ多くて箱を開ける勇気がわかなくてですね!!」
なぜかテンパったキータが一人申し開きを開始したところで、
やっと驚いていたメリムさんの顔がゆるりと緩みました。
「それでは、一緒に食べることにしましょう。
別に、遠慮なんかする必要はありませんのに」
ちょっとだけ困ったような笑顔でそう答えるメリムさん。
キータの顔は日が差したように笑顔に変わります。
「それじゃ、せっかくですから飲み物をいれましょうか?
キータさんは紅茶と珈琲、どちらがお好みですか?」
ふわりと暖炉の側にいくと、メリムさんは荷物袋から
お茶の道具を出して、笑顔でキータにそう尋ねるのでした。
ゲストさん:メリム・ファルトリアさん